「親しい人との死別、骨髄移植手術、乳がん、心臓発作、戦闘、自然災害」これらは、私たちに起こりうる最悪の事柄の例です。しかしこれらの事柄は、たくさんの人々がポジティブな成長を遂げるきっかけとなった出来事でもあります。
心理学ではこういった経験を「逆境下成長」や「心的外傷後の成長」と呼びます。心理学者のリチャード・テデスキらによって、「心的外傷後の成長」について過去20年以上に渡り、実験的研究が行われていました。その結果、「重大な苦しみやトラウマは、様々な面において非常にポジティブな変化をもたらす」という事を証明する事ができました。
日本でも、乳がんを克服し強く美しくポジティブな成長を遂げた女性について多く報道され、彼女らは最終的には人生全体に対する満足度さえ増したと語っています。
もちろん、すべての人にこういったポジティブな変化が起こるとは限りません。辛い経験の中で成長していく人と、そうではない人がいます。そこには様々なメカニズムが関係していますが、最も分かりやすい違いとしては、やはり「ポジティブなマインドセット」を持てているかどうかです。
挫折から立ち上がる事のできる人は、何が起こったかによって自分を定義するのではなく、その経験から何を得るかによって自分を定義できるのです。そういった人たちは、逆境を利用してそこから上方へ伸びる「第3の道」を探す事ができるのです。
「逆境下成長」という道を見つける方法
困難や逆境に直面しながらも上方へと向かう「第3の道」を見出す能力は、自分の経験、すなわち自分が引いたカードの「手」をどう捉えるかによります。「逆境下成長」に続く道を見つけるためには、置かれている状況や直面した出来事をポジティブに再解釈し、楽観性を失わず、しかし現実を受け入れ、問題を避けたり否定せず真正面から見つめることです。
心的外傷後の成長に影響するのは、その出来事がどうかというものではなく、むしろその出来事の主観的経験によるものです。
私たちの人生では、どこかの時点で、過ち、挫折、失望、肉体的苦痛といったなんらかの逆境を経験します。しかし、どんな困難であっても、何かしらプラスになるモノを得られる、成長の機会を伴うモノです。
物事はいつでも良い方向に転がる訳ではありません。しかし、起きたことから最良のモノを引き出し、成長するチャンスは常に伴っているのです。
ゴルフが上手くなるメンタル術
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メンタルのスタイル
極少数ではありますが、どのような困難に直面しても、常に気力を取り戻し、必ず立ち上がれる人がいます。ポジティブ心理学の創設者であるマーティン・セリグマンの研究によると、そういった人たちには『困難な状況の説明の仕方がポジティブである』という共通点があるといいます。心理学者たちはこれを『楽観的な説明スタイル』と呼びますが、この説明のスタイル(起きた出来事の本質をどのように説明するか)が、幸福度や将来の成功に決定的な影響を与えるという事が実証されています。
『楽観的な説明スタイル』を持つ人たちは、逆境を「限定的で一時的なモノ」と解釈します。この状況はそれほど大した事ではなく、すぐに回復するだろうと考えるのです。
一方、『悲観的な説明スタイル』を持つ人は、同じ出来事をより「大々的で永続的」だと考えてしまうのです。この酷い状況はもう2度と良くならないかもしれないと考えるのです。
そしてこれらの説明スタイルによって現れた信念はそのまま行動に反映されます。より結果を出そうと一層の努力をする人と、無力感に落ち込み努力を止めてしまう人に分かれるのです。
逆境から立ち上がるテクニックを身につける
困難をチャンスに変えるというのは一種の技能であり、生まれがながらにして『楽観的な説明スタイル』を自然にできる人もいます。一方、いつもネガティブな思考からスタートし、なかなかうまくチャンスに変えられない人もいます。
しかし、あなたが後者であっても心配する必要はありません。この説明スタイルは『技能』ですから、努力によって後天的に身に付ける事ができます。
解釈のABCDモデル
逆境をチャンスに変えるための方法の1つとして『解釈のABCDモデル』をトレーニングする事をオススメします。この 『ABCD』はそれぞれ、
- A:Adversity=困難な状況
- B:Belief=信念
- C:Consequence=結果
- D:Disputation=反論
を意味します。
Aの「困難な状況」自体は変える事ができません。Bの「信念」は、出来事をどう捉えるかという物差しになります。それは一時的で限定的なモノなのか、永続的で大々的なモノなのか。解決方法が見えているのか、それとも解決不能なモノなのかという具合です。
直面している逆境が一時的で限定的なモノであると考える事ができれば、そこに成長の機会がありポジティブな「C=結果」を得る事ができます。しかし、悲観的に捉え、状況がさらに悪化しまた永続的なモノであると考えてしまえば、無力感と無為がネガティブな「C=結果」をもたらします。
残念ながらポジティブなマインドセットを持てておらず、悲惨な「C=結果」が待っていた 場合は、「D=反論」によって「B=信念」に変化を起こす必要があります。
「D=反論」は「デカタストロファイジング」と呼ばれるモノで、今の悪い状況が現実であっても、最初に思い込んだほどに絶望的ではないことを、時間をかけて自分に分からせる方法です。「B=信念」というのは、単に自分が信じている事にすぎず、事実そのものではないと考え直すのです。「そこに数的根拠はあるのか」「ほかの反事実を創れないのか」「誰かに同様の理屈を言われても納得できるか」といった具合に自問自答するのです。
物事は大抵、自分が思うほどに悪くはないモノなのです。
『免疫軽視』といって、これからの自分にはものすごい不幸がまっており、永遠に抜け出せないと大袈裟な推測をしてしまう事がありますが、人間の精神はかなりの弾力性を持っています。人は誰でも有効な心理的免疫システムを持っており、逆境を乗り越える事ができます。
逆境はどんなモノであれ、自分が想像するほど酷くならなりません。なぜなら、悲惨な結果を予想する事による恐怖は常に、結果そのものよりも悪いモノなのです。
私は人生で何度も何度も挫折した。それが今の成功をもたらした(マイケル・ジョーダン)