私たちの生活には、常に『トレードオフ』がついて回ります。
図らずしも、何かを選ぶたびに何かを捨てているのです。すべてを同時に、同様のクオリティでこなす事は出来ません。この認識が甘い場合、どちらが中途半端になったり、約束の期限を守れなかったりしているはずです。
元リーマン・ブラザーズCFOのエリン・カランは、「仕事がすべてという生き方を選択するつもりはなかった。しかし、月曜の仕事に備え、日曜に30分だけメールやスケジュール管理を始めたのだが、徐々にその時間が伸びていき、結局は何もかもが仕事に呑み込まれていった」とニューヨークタイムズ紙で語っています。この話はエリン・カランに限らず、多くの大企業のCEOも同様です。仕事が出来る人ほど、このトレードオフを見失いやすいのです。
すべてを『優先』する事は何も『優先』しないという事
どのような企業にも『社訓』のような形で、様々なステートメント(価値観の宣言)があると思います。この『社訓』は様々な場面の判断基準に繋がる非常に重要な指標ですが、このステートメントが聞こえのいい言葉の羅列だけである会社は注意が必要です。
例えば『われわれは顧客、従業員、株主をもっとも大切にします』というようなステートメントは多く見かけますが、これは最悪の社訓です。
羅列されているだけでは優先順位がわからず、これらの価値が相容れない状況に置かれた時、何を優先し、どう決断するのかが見えてきません。すべてを優先する事は、何も優先しないと同じ事です。
このように、優先順位が明確でなく、上司によって、または状況によって優先事項がコロコロ変わるような会社には長くいるべきではありません。
一方で、リッツ・カールトンの『クレド』やジョンソン・エンド・ジョンソンの『我が信条』などは、最高のステートメントでしょう。優先順位が明確であり、またその目標・ゴールも非常に魅力的であります。
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- ピンを攻めたいけどボギーは打ちたくないは中途半端
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- 優先順位1位の事に集中する
「タイレノール事件」に対するジョンソン・エンド・ジョンソンの対応
1982年、ジョンソン・エンド・ジョンソンの圧倒的な売り上げを誇る看板商品であった「タイレノール」(解熱鎮痛剤)を服用した人が相次いで亡くなる事件が起こりました。
当然、ジョンソン・エンド・ジョンソンの経営陣は、非常にタフな判断を迫られます。すべての「タイレノール」を回収し、顧客の安全を図れば1億ドル以上の損失が出て株価が大きく下落します。安全性のアピールを徹底し、経済的損失を減らす事もできます。また、被害者の遺族に対する謝罪と補償を真っ先に行う事もできます。
しかし、ジョンソン・エンド・ジョンソンはすでに優先順位は決まっていたのです。
ジョンソン・エンド・ジョンソンには『我が信条』という頼るべき指針があり、そのステートメントには「顧客が第一で株主は最後」であると、しっかりと石碑に刻まれた優先順位がありました。
この信条に基づき、ジョンソン・エンド・ジョンソンは速やかに「タイレノール」の回収を決定したのです。そこでどれほど多くの損失が出るかは問題ではありませんでした。明確な優先順位があったため、「顧客」と「株主」のトレードオフを受け入れる事ができたのです。
トレードオフからは逃れられない
トレードオフから目を背ける事は可能です。しかし、トレードオフから逃れる事は出来ないという事を肝に銘じなければなりません。
『トレードオフ』が起こる状況は、どちらも捨てがたい物を選ばなけらばならない状態にあります。例えば、「高い給料vs長い休暇」「速さvs質」「大切な接待vs家族との時間」というように、どちらも望む事を選ぶ時に『トレードオフ』が発生し、どちらにも「YES」と言いたくなる状況なのです。
しかしここで「どうすれば両方できるか?」と考えてはいけません。ここに完璧な答えは存在せず、「どの問題を引き受けるか?」というタフな『トレードオフ』があるだけなのです。
『ビジョナリー・カンパニー』シリーズの著者であるジム・コリンズは、ピーター・ドラッカーから「偉大な企業をつくるか、偉大な思想をつくるか、どちらかだ。両方は選べない」というアドバイスを受けたと言われています。そしてコリンズは『思想』を選び、彼の思想は世界中の何千万人の人々に影響を与えることになったのです。
トレードオフは痛みを伴いますが、一貫した選択を続けていれば、その結果は理想的な成功として返ってくるチャンスであるのです。『何を諦めなくてはならないか?』と問う代わりに、『何に全力を注ぐのか?』と考えるべきなのです。
戦略的に慎重に選び取る
トレードオフに目を背けるのではく、戦略的に、そして慎重に選び取らなければなりません。
エッセンシャルに生きるためには、普通の人よりも多くの選択肢を検討する必要があります。非エッセンシャルの人は、あらゆるモノに反応し、何にでも手を出してしまいます。そして全てが中途半端な結果になるのです。しかし、エッセンシャル思考で生きている人は、数多くの選択肢を慎重に検討し、「これだけは」ということだけを実行するのです。非エッセンシャルの人と比べ行動の数は少ないかもしれませんが、やると決めた事については最高の結果を出す事が出来るのです。
ゴルフが上手くなるメンタル術
- トレードオフから目を背ける事は可能だが逃れる事は出来ない
- この状況で「何に全力を注ぐのか」を考える